平成29年8月に本県では初めて箱根町、三浦市でナラ枯れと見られる現象が発生しました。
3年経った今、被害は県内全域に拡大し、被害木は10倍に急増しています。
被害の蔓延を防ぐために早期発見がとても重要です。
ぜひご一読いただき、情報収集にご協力をお願いします。
※愛川町八菅山でナラ枯れの状況を調査しました
◆ナラ枯れとは?
ナラ枯れとは、7月から9月の夏の終わり頃、急に木が枯れてしまう現象です。
枯れる木はコナラやミズナラなどの広葉樹です。
※県HPより引用 変色している木がナラ枯れ被害木
◆被害が疑われる木の見分け方は?
遠くから見ると、葉が枯れ茶褐色になります。
木に近づくと、根元にフラス(木くず)が積もっています。
※八菅山のナラ枯れが疑われる木
フラスは直径2㎜ほどの穴から出ています。
この穴にはカシノナガキクイムシ(通称カシナガ)が生息しており、この昆虫が媒介するナラ菌が木の中でひろがり、樹木が水を吸い上げる機能を阻害して樹木を枯らしてしまいます。
※県のパンフレットより
◆カシナガは木の中で何をしているの?
最初にカシナガのオスが繁殖に適した木を探して入りこみ、集合フェロモンによってメスや仲間を呼び寄せ、繁殖します。
◆ナラ枯れ発生のメカニズム
①脱出
6月~8月前年に枯れた樹木から新成虫が脱出する。
(県内では5月中旬から脱出が確認されている)
②雄の穿入
少数の雄が樹木に穿入し、集合フェロモンを発散する。
③集中攻撃(マスアタック)
集合フェロモンに誘引された成虫が樹木に穿入する。
集中攻撃を受けた樹木は、ナラ菌が蔓延し、通水機能を失う。
④産卵
雌が孔道内で産卵し、幼虫は木の中で酵母菌を食べて成長する。
7~9月樹木が枯れる
⑤羽化
越冬した幼虫が翌春に羽化する。
枯死木の葉は冬になっても落葉せず、根元にフラスが堆積する。
◆防除の方法は?
①予防手法(秋~春)
●ビニールシート等の被覆
※林野庁HPより引用
※八菅山では、町がシートを巻く対策をしていました
●殺菌剤の注入
樹木を枯らすナラ菌やカシナガの餌となる酵母菌等を殺菌し、カシナガの繁殖を防止
②伐倒駆除手法(秋~春)
●薬剤によるくん蒸または焼却
※林野庁HPより引用
◆県央地域の現状
※神奈川県森林協会HPより引用
※県内のナラ枯れ被害データ(県水源環境保全課より提供)
●相模原市
2019年度は62本だったが、2020年度(2月時点)では1,122本と、前年から10倍以上の激甚的な被害を確認し、補正予算8,600万円を3月定例会に計上し対応にあたる。
●厚木市
市内で10月に行った調査で約540本の被害木を確認。県が管理する七沢自然公園では、2019年度30本の被害木が2020年度約100本と急拡大している。
●海老名市
2019年度は未確認だったが、2020年度約270本の被害木を確認。補正予算に伐採費用を計上している。
●座間市
2019年度は未確認だったが、2020年度(10月末時点)では市の管理する公園・緑地などで238本で被害を確認し、補正予算約800万円を12月定例会に計上し対応にあたっている。
令和3年2月2日にWEB開催された県央相模川サミットでは、上記市長と愛川町長、清川村長の間で「ナラ枯れ」に係る対策を協議し、神奈川県市長会等を通じ、対策に必要な予算の確保等について国に対し要望することに合意しました。
◆愛川町・清川村の現状
今のところ被害は限定的ですが、山間部の被害まで把握しきれないのが現状です。
愛川町では鳶尾山で被害木7本に薬剤を注入予定のほか、八菅山の一部も対応しています。
清川村では夏にドローンで空から調査したところ、集落周辺の斜面などで10ヶ所程度ナラ枯れの疑いのある樹木が確認されました。
愛川町・清川村のナラ枯れの状況については、市街地でなはく山中で多く見られ、民家や公園、道路に近いところで被害がみられる相模原市や厚木市とは状況は異なります。
しかし、一度カシナガが入り込んでしまえば伐採に多額の費用がかかる上、生活圏までナラ枯れが蔓延すると、倒木による危険も生じます。
→木の見回りと虫を木に入れない対策(予防措置)をすることが重要です
◆私たちができる対策
※A4クリアファイルで作成したトラップ
被害木を見つけたらまずは市町村または県の森林部局へ連絡してください。
・愛川町 046-285-2111(代表)
・清川村 046-288-1211(代表)
・県央地域県政総合センター森林保全課 046-224-1111
被害が限定的な愛川町・清川村では、予防措置を早めに行うことが重要です。
そのためにはカシナガの痕跡を見つけるほか、あらかじめ大径木に簡易トラップを設置し、カシナガが多い時期や場所を把握すると対処を行いやすくなります。
また、木にビニールや粘着シートを巻くことで、被害木からのカシナガの脱出や、未被害木への新たな穿入を阻止する方法もあります。
いずれも、カシナガが脱出をはじめる5月中旬までに対処する必要があります。
行政が把握している被害木については対処が始まっていますが、急速な拡大で追いついていません。
また、行政が直接対応できない民有林は対策が急務です。
現状としては道路や住宅に近いところなど、人身被害につなる恐れがある被害木への対応が優先されていますが、どこにナラ枯れがあるかの把握も重要です。
ナラ枯れについて関心を高めていただきたいと思います。
◆「座間安全・安心推進会」
行政の管理が及ばない民有林の予防に取り組むため、座間市の市民団体「座間安全・安心推進会」が発足しました。
被害拡大を食い止めるためには、早期の対策が不可欠であることから、市民団体は所有者の方々に注意を呼び掛けるほか、県や市と共同で講習会を開催しました。
県は、県内のナラ枯れの発生状況や生活への影響、被害の特徴、カシナガが侵入した跡によくフラスが見られることなどを説明し、市はカシナガ駆除の報告などを行いました。
また、市民団体は、私有地に適した駆除の方法などを紹介し、講義の後にはナラ枯れへの対策を行った実際の樹木などを見学したとのことです。
ナラ枯れ対策はこのような連携した取組みが必要と考えます。
◆望ましい里山管理とは
ナラ枯れは自然現象ですが、同時に環境問題でもあります。
里山の木々は、木炭や薪にするため、短い周期で伐採されていました。
しかし、燃料にガスや灯油が使われるようになると、林は放置され、利用されることがなくなりました。
その木々が巨木化し、カシナガの繁殖に適したサイズの樹木が各地に増えていったのです。
カシナガは大径木で繁殖効率が良く、直径30㎝では数万頭が飛び出すこともあり、「枯死木が数本だから」と放置していると、数年で百倍千倍の被害量に増える恐れがあります。
迅速的確な判断が求められます。
ナラ枯れ増加の背景には、私たちの生活習慣が変化があります。
被害を減らすためには、まずナラ枯れに関心を持っていただきたいと思います。
そして、ナラ枯れの増加を目の当たりにして思うことは、今の里山の20年後、30年後を想像したときに、現在の放置された森林が、環境保全を支える森林として持続できるのかということです。
長い目で見れば、森林資源を循環させるシステムをもう一度復活させて、健康な森林を育むことが望ましいと考えています。
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