最近、サルやイノシシ、シカなどの動物が農作物を漁ったり、生活や人に被害を与えていくという話しを多く耳にします。
山間部である愛川町・清川村でも、農地周辺のヤブやヤブ化した里山などの身を隠せる場所があるためシカ・イノシシが居ついていたり、畑の作物や住宅地周辺の放棄果樹を食べにサルが出没したり、農作物被害が多く発生しています。
◆ 愛川町の被害状況(平成29年度)◆
※愛川町鳥獣被害防止計画より
詳しくはこちらをご覧ください。
今回は、鳥獣被害に関する県の制度や、鳥獣被害への対策に訓練された犬(モンキードッグ)をいち早く導入した長野県「安曇野ドッグスクール」についてお知らせします。
1.神奈川県の野生鳥獣による農作物被害状況
令和元年度の野生鳥獣による農作物被害額は、約2億 4,800 万円で、前年度に比べ約 6,200 万円の増加となっています。被害額が多い鳥獣は、イノシシ約 7,200 万円、ヒヨドリ約 4,700 万円、シカ約 3,200 万円、カラス約 2,400 万円となっており、この4種で全体の約7割を占めています。イノシシについては、前年度比約 800 万円の 増加となっています。
2.鳥獣被害対策
神奈川県では鳥獣被害への対策として「かながわ鳥獣被害対策支援センター」を設置し、市町村や関係機関と連携して効果的な対策の提案、技術支援、効果検証などの支援を行っています。
<3つの基本対策>
集落環境整備・・鳥獣の隠れ家となる藪の刈り払いや鳥獣のエサとなる放棄果樹の除去など 被害防護対策・・鳥獣の侵入を防ぐ防護柵の設置や住宅地からの追い払いなど 鳥獣の捕獲・・・銃器やわなによる加害個体の捕獲
これらの基本対策を軸に、市町村や地域住民が一体となって捕獲等に取り組む「地域ぐるみの対策」が効果的であり、地域ぐるみの対策推進のために「重点取組地区」を選定し、地区ごとにチームを編成して支援を行っています。
具体的には、被害が発生している地域の現状を把握し、必要な対策について合意形成を図りながら計画を作成、実行し、対策の効果検証と評価を行いながら、地域の自立を促す取組を県内に広めていくよう進めています。
ドローンを活用した集落環境調査や、GPSを活用したニホンザル管理、ICTを活用したイノシシのわな捕獲など、動物の習性や行動を分析した上で、様々な対策を行っています。
3.第二種特定鳥獣管理計画
本県では、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律に基づき、ニホンジカ、二ホンザル、イノシシについて、第二種特定鳥獣管理計画を策定し、専門家や地域の関係者の合意を図りながら、科学的なデータに基づき、個体数調整、生息環境整備、被害防除対策、モニタリングの事業を実施しています。
※第二種特定鳥獣管理計画:その生息数が著しく増加し、又はその生息地の範囲が拡大している鳥獣の管理に関する計画
■ニホンザル管理計画
農作物被害の軽減及び生活被害・人身被害の根絶による人とニホンザルの共存を目指すとともに、長期的な観点からニホンザル地域個体群の安定的な存続を図ることを目的として、平成15年3月に「神奈川県ニホンザル保護管理計画」を策定し、各種事業を実施してきました。
これまでの取組により、県内に生息する3つの地域個体群は維持され、群れ数及び個体数の大幅な増加は抑制されていますが、農作物被害が減少する傾向は認められず、生活被害及び人身被害は増加傾向にあります。このような状況に対応するため、平成29年3月に「第4次神奈川県ニホンザル管理計画」を策定しました。
※県HPより
詳しくはこちらをご覧ください。
■追い上げ
ある目標エリアに向けて、群れを移動させるために、「追い上げ」を行う。
追い上げとは、煙火、爆竹、銃器(ゴム弾、 花火弾)、エアガン、スリングショット(パチンコ)、イヌなどを使用して人に対する恐怖心をサルに植え付け、人がいるエリアには近寄らせないようにする対策の一つです。
実施に当たっては、電波発信器等をサルに装着し、群れの位置を把握するこ とにより、効果的な追い上げの実施に努めます。 県は市町村等が実施する追い払いや追い上げ活動に対し、追い払い員などへの技術的支援を行っています。
しかし、市町村等への周知がまだ行き渡っていないことや、人員が不足していて追い払いをするタイミングで出来ていないというのが現状です。
4.長野県大町市から全国に広がった「モンキードッグ」
鳥獣対策について他県での事例を調査していく中で、
長野県大町市で「モンキードッグ」というサルを追いかける犬が活躍し、
成果をあげているという記事を目にしました。
長野県の山間部の地域では2000年頃から、リンゴやソバの実などの農作物が食い荒らされ、ふん尿による汚染問題が深刻化し、屋根の上をサルが跳び回り瓦がずれるなどの被害もあったそうです。
大町市では15~16群およそ900匹のサルが生息していると推測し、花火や大きな音で追い返す取り組みをしましたが効果が出にくかったため、2005年に全国で初めてモンキードッグの育成を開始し、実際に運用を始めると人里に出没するサルの群れが激減しました。
この本は、前例が無かったところから「モンキードッグ」がどのようにスタートして現在活躍をしてきたのか、当時の様子が細かく記されています。野生動物と人間がどう共存していくかを問いかけてくれる本です。
5.安曇野ドッグスクールを視察しました
本県でも鳥獣被害が深刻化していることから
大町市でのモンキードッグ導入の際に、市と協力し大きな一歩を創られた
安曇野ドッグスクール代表 公認訓練士の磯本隆裕さんに訓練所にてモンキードッグの効果や課題を伺ってきました。
長野県安曇野市にある「安曇野ドッグスクール」では、人里に出没し農地を荒らすサルを山奥に追い払う、専門訓練を受けた犬たちがいます。
犬種に関わらず応募ができ、訓練士が適性であると判断すれば5ヶ月間の専門訓練を受けることができ、家庭犬から立派なモンキードッグへとなる。
〇人に危害を加えない
〇サルだけを追う
〇飼い主が呼んだら戻る
これらの判断もしっかりと出来るように訓練され、現在は大町市で25頭、安曇野市で5頭が活躍しています。
この日は今年3月にデビューをした「モモ」と、飼い主の中山裕朗さんも一緒に同行していただき、サルの追い払いの場面を実際の現場に行き、見せていただきました。
モンキードッグの出動するタイミングとしては
通報があった際にすぐ出向いて追い払いをしたり、その土地へ近寄らせないようにするため定期的に循環パトロールをしてモンキードッグの臭いをつけることをしています。
※畑の放棄果樹などを食すサル
※モンキードッグが出動し、サルは一目散に山へと逃げ込みました
※磯本さんが地域住民の方へお声をかけている様子
「地域住民が一丸となって被害をなくす意識が大事」
サルの出没状況を聞いたり、パトロールを行った報告など、地域の方とのコミュニケーションを取りながら、住民一丸となっていく事が大切であると磯本さんはお話されていました。
同行させていただく中でも、地域の方が磯本さんに遠くから手を振ったり、お辞儀をする場面があり、日頃から細やかなコミュニケーションを取られていて、「モンキードッグ」の活動が地域に根付いている様子が伺えました。
※モンキードッグ実施中の看板
道路にはこのようなモンキードッグが活動している看板が設置されています。
過去にはサルを追いかけている最中に犬が道路に飛び出し、軽トラックにはねられるという事故もあったため、住民も日々気を付けながらモンキードッグを見守ってもらうよう対策がされています。
また、オレンジ色のビブスを付けて、モンキードッグの活動をしているという事も分かるように周知しています。
※定点カメラを設置し、サルやクマの行動分析を行いながら対策を講じたところ、この場所にはあまり近づかなくなったという場所
6.モンキードッグ活動における総括
磯本さんがこれまでモンキードッグの活動をしてきた中での、分析結果や重要な点を教えていただきました。
①住民の鳥獣被害に対する意識の高い地域ほど、被害は減少傾向にある。逆に意識の低い地域の被害は横這い、または増加傾向にある。
②サルが出没した際、地域住民が行っている行動のまとめ
・自分でサルを追い払う、地域の人たちで追い払う
・ロケット花火やスリングショットなどの道具で追い払う
・モンキードッグの出動要請をする
・市や町に追い払いを要請する
・猟友会に捕獲や駆除を依頼する
・何もしない、もしくは諦めている
③サルの出没や被害が激減した地域の活動内容
・サルが出没した場合、毎回追い払う
・サルが何を食べにきているのか調べる(季節ごとの食べ物を調べる)
・1~12月まで被害のあった地域によってサルの群れの学習が違う
<被害を増やさないために推奨される対策>
①サルなどの野生動物が隠れる場所(草むら、林)の刈り払い
②木から木へ渡れないように木の伐採
③農地に作物を残さない、生ごみや農作物を山へ遺棄しない
④柿、栗などのサルが好む木は、利用しないのであれば伐採する
⑤電気柵、GPS、テレメーターなどを有効活用する
⑥モンキードッグ、ヒツジ、ヤギ、牛などの動物たちの有効活用
⑦ドッグラン
※リンゴ畑の中をドッグランとして活用し、サルやカラスから守ってくれている様子
もっとも重要なことは地域住民の鳥獣被害に対する意識の高さであると
磯本さんは繰り返し仰っていました。
市から訓練費用や活動費の補助が出る地域もあり、少しずつ行政との連携が取れている部分もあるが、現状モンキードッグと飼い主とが活動しやすい環境ではまだない。
地域住民と犬との繋がりを深めてきた磯本さんは、今後の活動を引っ張っていく人たちをたくさん育成していきたいと、私たちにも今回快く活動を教えてくださいました。
まずは私の地域でも住民の方々の声を聞き、住民の方へもサルに対する知識を付けていただいたり、集落に近寄らせないために進入路を想定しておくなど出来ることから始めていきたいと思います。
佐藤も今回の視察を受け、今後効果的なやり方を市町村と連携しながら取り組んでまいります。
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